歯科医師であれば必ず知っている「予防には保険は効かない」という事実。
しかし、患者さんからすると3カ月に1度程度の定期検診やメンテナンスは保険で行ってもらってますけど?と疑問に感じる患者さんも多いかと思います。
まず、患者さんには、3カ月に1度程度の定期検診やメンテナンスがなぜ保険で行えるかなど基本的な状況から説明していきたいと思います。
そして、後半に定期検診やメンテナンスを保険で行っている歯科医師への個別指導対策をお伝えします。
歯医者の定期検診が保険で行える理由
はじめに保険診療・保険請求のルールの原則は「予防には保険が効かない」です。
では、3カ月に1度の定期検診やメンテナンスに保険が効くのかというと、P(歯周病)と病名を付け、歯周病の治療ということで保険治療を行っています。
そのため、いくら患者さんが1カ月に1度の定期検診・メンテナンスを希望したとしても、歯周病の治療を行い完治しているにもかかわらず、また1~2カ月の周期で定期的に歯周病であると診断し治療すると、「そんなに定期的に歯周病になるのはおかしい」とつじつまが合わなくなります。
そのため、3~4カ月に1度のサイクルでP(歯周病)と病名を付け、保険治療を行っているということです。
当然、患者さんは疑問に思いますよね?「えっ、それって不正じゃない?」って。
ハッキリ言って不正と思いますが、なぜこのような状況が黙認されているかについて詳しく説明していきます。
その理由は、患者さんから見るのと、歯科医師側から見るのとでは違いますのでそれぞれの立場から考えていきます。
患者さんは保険診療により負担軽減
「予防が大事」ということは周知の事実です。将来的に自分の歯を守ることは勿論、将来の歯科治療費も同時に軽減できるというメリットもあります。
また、歯周病は全身疾患との関係も明らかとなっていることから、様々な病気のリスクも軽減できるなど、予防歯科の効果は本当に大きいです。
しかし、いくら「予防が大事」でも“予防には保険が効かない”となると保険外診療となるため患者さんの治療費負担はとても重くなります。
では、どのくらいの負担となるか?というと、そのまま保険で定期検診・メンテナンスを行った場合の治療費が全額負担となった場合、9000円~1万円程度の歯科治療費がかかっています。
一般患者さんは保険が適用されて3割負担ですが、自費診療となると全額負担で3倍以上の負担となるということです。
単に全額負担となる歯医者だけではない
ただ、「単に保険診療の分が全額負担となる」という歯医者だけではありません。保険外診療となると、それ以上に高額な治療費を求める歯科医院は非常に多くあります。
実際、「自費の予防歯科でガッポリ稼ぎましょう」という歯医者経営がトレンド化しています。
患者さんへの優しさから
上記のように「予防には保険が効かない」という原則を忠実に守ると患者さんには大きな負担となり、定期検診を受けることができなくなります。
「P(歯周病)という病名を付けて保険診療を行う」ということは、
- 大事な予防を少ない負担で継続的に行ってもらう
- そのことで将来の患者さんの歯と健康を守る
という目的を達成するための優しさから、歯医者さんが用意した“抜け道”ということです。
歯医者さんの目的は患者確保、安定収入
歯医者さんがこの“抜け道”を活用するのには、患者さん側とは違った理由があります。歯医者さんにとっては
- 継続的な定期検診による安定収入の確保
- 患者さんを確保することで他医院への流出を防ぐ
- 予防歯科を充実することで他医院との差別化をはかる
などの目的があります。
中でもP病名を付け
- 初診
- 歯周基本検査
- スケーリング
- 歯科衛生士実施指導
などをセットで算定すると900点以上(1点=10円)となり、歯科医院にとって安定収入となります。
セット算定での保険請求は個別指導の対象に
当然、この安定収入は歯科医院経営にとって重要なものです。
また、このような形での保険請求がどの歯科医院でも当然のごとく行われており、「予防は保険診療が認められていない」という大前提を見失っている歯科医師も多くいます。
この大前提を見失うと非常に危険です。何故なら、厚生局はこのような”抜け道“を決して許しているわけではありません。現に個別指導の対象となり、返還請求を迫られているのはこのようなケースが非常に多いのです。
P算定の定期検診・メンテナンスで個別指導
なぜなら、この様にP病名を付け
- 初診
- 歯周基本検査
- スケーリング
- 歯科衛生士実施指導
などをセット算定すると、カルテ入力もセットで行われることからどの患者さんもほとんど同じカルテが完成し、同じ点数となります。
そうなると、
- ほとんどの患者さんが
- 規則正しく3カ月ごとに来院し
- 実日数は1日
- 算定項目は同じ
- 患者さんは点数も同じ
というレセプトがズラリと並ぶこととなります。
これ、誰が見ても「傾向診療」です。
「患者さんのため」の”抜け道”であっても、結果的に個別指導の対象となり返還することになれば、実質的な損失だけでなく、実務的、精神的な大きな負担を伴うこととなります。
また、「一度、個別指導で怒られたら終わり」という簡単な話でもなくなります。当然、改善を迫られますし、結果的に他にも指導対象が見つかることもあります。
また、個別指導後は委縮診療となりこれまで通りの請求はできなくなります。そのことで、医業収入は減り歯科医院経営が悪化することに繋がります。
こうなると安定収入どころか歯科医院の経営危機となってしまいます。
P算定の定期検診・メンテナンスでの個別指導対策は
とは言え、保険診療で定期検診・メンテナンスを行い、リコール率を高めなければ歯科医院の安定経営に繋がりません。
ただ、上記で示した形であれば個別指導の問い省となった場合、間違いなく再指導となってしまいます。
そこで対策としては以下の方法があります。
①個別指導で指摘される項目をあきらめる
個別指導で指摘される項目は以下の2項目です。
- 初診料
- 歯科疾患管理料
このどちらかをあきらめることです。
歯科疾患管理料の場合
そもそも歯科疾患管理料は継続治療が必要な場合に算定されるものです。実日数1日で治療が完了しているのに歯科疾患管理料を算定すると必ず指摘されます。
初診料の場合
歯科疾患管理料は取りたい場合、初診ではなく再診にし、初診料をあきらめることです。そうすることで継続治療ということとなり歯科疾患管理料の算定が可能となります。
か強診
かかりつけ歯科医療機能強化型歯科診療所(か強診)は施設基準を満たしている歯科医院ということとなりますが、SPT(歯周病安定期治療)へと進むことで、歯周基本治療が終わっても4㎜以上の歯周ポケットは1歯でもあれば3カ月に1回SPT算定が可能です(歯周治療で外科治療を行っている場合は毎月算定可能)。
②根拠のあるカルテを作成する
「同じカルテがズラリ」は間違いなく指摘されます。まず、どの患者さんからの主訴が同じということは現実的にあり得ません。
しかもレセコンの形式コメントそのままでは、指摘されて当然です。そのことからも患者さんの主訴は、形式コメントではなく患者さんの主訴を記載する必要があります。
カルテは、
- 患者の主訴があり、
- ○○を疑い、
- そのことから△△の検査を行った、
- 検査の結果○○であることが判明した、
- そのため□□の治療を行った
という根拠のあるカルテを普段から作成すことが重要です。。
最後に
私は財政問題や医療費抑制を危機的状況と訴えておきながら、未だに「予防は保険がいかない」という制度を何も変革しようとしない国の姿勢を見ていると、國は問題を解決しようなど本当は思ってもいないように感じています。
予防が患者さんにとって必要なことということは明らかです。そのことからも患者さんに予防歯科を提供したいという歯科医師の気持ちも当然です。
この様な矛盾や歯科の低点数への不満はわかります。しかし、いくら「患者さんのために頑張っている」と個別指導の場で主張しても、厚生局は「保険請求のルールに従って保険診療を行っているか」という側面でしか見てくれません。
歯科医院経営にとっては、リスク管理として個別指導に対しての予防も重要なことです。
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