歯科医院を開業すると受けなければならないのが「新規集団指導」と「新規個別指導」です。
新規集団指導とは
新規集団指導の通知は基本的に開業6カ月以内(都道府県により違いあり)に届きます。
新規集団指導は講習会形式で行われ、目的は保険診療において診療報酬を請求するためのルールを周知徹底するための指導です。
新規個別指導
新規個別指導は、開業した歯科医師全員が必ず受けなければなりません。
内容は、新規集団指導にて周知徹底した保険診療において診療報酬を請求するためのルールがしっかりと実施されているかの確認を個別面談形式で行います。
新規個別指導では10人分のカルテが対象となるなめ、カルテなどを持参して参加しなければなりません。
新規個別指導は指定されたカルテを1週間前に用意すれば良いだけか?
新規個別指導は、指導医療官が「ここは間違いで、正解はこうですよ。今後は気を付けてくださいね」と親切丁寧に間違って理解している個所を教えてくれる講習会のようなものではありません。
ハッキリ言うと新規個別指導をナメテイタラとんでもないことになります。新規個別指導➔監査➔指定取消となる場合も想像以上に多いのが現実です。
あたりまえと言えばそれまでですが、保険医として診療報酬を請求する以上は保険診療のルールを理解しなければなりません。
いくら新規開業間もないからと言って、保険請求のルールを理解・守れない歯科医師は保険医療制度から退場させられます。
新規個別指導は理詰めで追及される
新規個別指導は講習会ではありません。指導医療官からは、
- 「ここはどうしてこのような請求をされたのですか?」
- 「訪問診療の患者さんの治療時間が全員同じなんですが、そんなことありますか?」
- 「これ意図的じゃないですか?その場合、不正請求ですよ。どうしてこのような請求をされたのですか?」
などの質問を受けたりします。
どうでしょう?しっかりと自信をもって指導医療官に納得してもらえるような回答ができるでしょうか?
回答できなければ、指導医療官からはさらに厳しく指摘されます。新規個別指導であっても「保険診療のルールがわっかっていない者には保険診療を行う資格がない」といこととなります。
新規個別指導から再指導
このように新規個別指導であっても、保険請求のルールをしっかり正しく理解できていない場合は1年後の個別指導となります。
ここで1年後の個別指導が確定した場合、3つのタイプの歯科医師に分かれます。
- 「このままではマズイ」と、しっかり保険請求のルールを勉強し理解に努めるタイプ
- 気にはするけど何も変化はなく1年後の個別指導を迎えるタイプ
- 保険診療に不安を抱え、高点数、ルール違反の不安から委縮診療となるタイプ
1.「このままではマズイ」と、しっかり保険請求のルールを勉強し理解に努めるタイプ
最も良いタイプです。
個別指導への不安を払拭するには保険請求のルールを勉強し理解するしかありません。
言い換えれば、分かってしまえば日々の診療において間違えることも無くなります。そのため、個別指導で指摘されても正しく論理的に堂々と主張することが可能となります。
しっかりと理解できれば、間違いなく個別指導のストレスや不安はなくなります。
2.気にはするけど何も変化はなく1年後の個別指導を迎えるタイプ
意外と多いこのタイプ。
新規個別指導で様々な間違いを指摘され、「この請求は大丈夫か?」という不安。「レセコン通りに請求しているのに何がダメなんだ。このレセコンのせいだ」とメーカーのせいにしてみたり、「なんで患者のためにこんなに頑張っているのにそんなこと言われなければならないんだ。指導医療官は臨床のことを全然わかっていない」
等々、様々思うことはあるかと思います。しかし、個別指導を行う指導医療官はそれ以上に「全く保険診療において診療報酬請求のルールが理解できていない」と腹立たしく思っています。
誰もが歯科医師は日々の診療で忙しく大変なことは分かっています。しかし、を保険診療のルール理解できないのであれば再度個別指導となり、この繰り返しとなります。
個別指導地獄から抜け出すにはしっかりと保険診療のルールを理解するしかありません。
3.保険診療に不安を抱え、高点数、ルール違反の不安から委縮診療となるタイプ
最も多いこのタイプ。
間違いなく最も多いのがこのタイプです。無理もありません。歯学部や勤務時代に保険請求のルールを詳しく教えてもらった歯科医師はほとんどいません。
また、開業してからも技術の向上のために様々な勉強会には参加していますが、保険診療のルールや経営のことを学んでいる歯科医師もほとんどいません。
技術向上=売上向上。自費率アップ=売上アップ=勝ち組。未だにこのような幻想が業界全体を覆っているのが歯科業界です。
スポーツでも何でも基礎・基本が最も重要といわれます。歯科医院経営の基礎・基本は保険診療と経営力です。
不安を抱えながら委縮診療を1年間続けた場合、多くの歯科医院では2割程度の医業収入減となります。委縮診療は間違いなく歯科医院経営を圧迫することとなります。
新規個別指導の相談は先輩歯科医師で大丈夫か?
新規個別指導は誰もが不安を感じるものです。
そして、ほとんどの歯科医師は相談できる先輩歯科医師に「今度、新規個別指導なのですが、どうすれば良いでしょうか?」と相談するでしょう。
ほとんどの先輩歯科医師の回答はこうです。
「普通にしておけば大丈夫」、「いろいろ指摘されるが、1時間ほどで終わるからハイハイと聞いていたらいいだけ」
そして相談した歯科医師は少しホッとするでしょう。でもこの様なアドバイスは絶対に鵜呑みにしてはいけません。
新規個別指導はそんなに甘くない
冷静に考えてください。
- その先輩が新規個別指導を受けたのは何年前でしょうか?その記憶は正しいと思いますか?
- 先輩歯科医師の時と今とでは時代が違いすぎます。その当時、現在の様に医療費抑制や財政問題、コンプライアンスにシビアな時代だったでしょうか?
- レセコンが当たり前の時代だったでしょうか?手書きで自分の頭で考えられたカルテを今開業する歯科医師は作成できるでしょうか?
今は、良くも悪くもレセコンやPCの技術革新により様々な作業は形式化され楽になりました。
しかし、一方で歯科医師自身が自分の言葉で考え、カルテに記載することは少なくなっていると言えます。
保険診療、保険請求を行うには、
- 患者の主訴があり、
- ○○を疑い、
- そのことから△△の検査を行った、
- 検査の結果○○であることが判明した、
- そのため□□の治療を行った
という「治療の根拠」をカルテで証明しなければなりません。
新規個別指導を問題なく終えるために必要なこと
新規個別指導は行政指導であるため、基本的に書面で「治療の根拠」を示す必要があります。
公的機関から報酬を得る場合は、新規個別指導に限らず書面でのやりとりが基本です。請求するために必要な要件なども概要として書面で示されています。
書面で示されている事柄以上でも以下でもありません。すべて「記載されている」としか言いようがありません。
しかし、記載されている内容が分からない場合や解釈などを訪ねた場合は、当然、厚労省や地方厚生局は回答します。
書面で「治療の根拠」を示す
書面で「治療の根拠」を示すことができる唯一の書類はカルテです。
指導医療官は役人です。役人として質問をしてきます。
- 指導医療官「何のためにこの検査を行ったのですか?」
- 歯科医師「○○のためです(こんなこと聞かなくてもわかるだろ)」
- 指導医療官「目的、所見、結果、経過を示していただかないと分からないですが」
- 歯科医師「すみません・・・」
- 指導医療官「ちょっとまってください。初診時の診療内容がどの患者さんでもほとんど同じですが。主訴、所見の記載がありませんが、どういった判断で治療に着手されているのですか?」
- 歯科医師「・・・」
- 指導医療官「○○の算定要件を理解されていますか?訪問診療時の治療時間がどの患者さんも同じなのですがこんなことありますか?同じ日に保険と自費の記載がありますが混合診療でしょうか?」
- 歯科医師「・・・」
- 指導医療官「なぜこのような保険請求を行ったのですか?」
- 歯科医師「・・・」
- 指導医療官「先生は保険診療、保険請求のことを理解されていますか?」
- 歯科医師「・・・」
- 指導医療官「すべて意図的であれば不正請求と言うことになりますね」
- 歯科医師「決してそんなことはありません・・・」
このようなダメ出しや厳しい根拠攻めが1時間続くこととなります。
新規個別指導であっても保険請求のルールを理解していなければ、保険請求のルールを熟知している指導医療官からかなり厳しく指摘されます。
そして1時間耐え忍んで「ハイ終わり」ではありません。正しく理解し、保険診療・保険請求が正しく行えるようになるまで毎年繰り返されます。
このことは、ほとんどの人にとって相当なストレスとなり、委縮診療に繋がり、医業収入の大幅減となり、歯科医院経営を危機的状況に追い込むことに繋がります。
「治療の根拠」を示す唯一の書類はカルテ
厚生局の手元には厚生局や保健所に提出した書類と、毎月のレセプトがあるだけです。
要するにレセプトなどのデータは持っているけど、そこからは検査や治療の必要性、算定要件を満たしているかは分かりません。
そのため、個別指導ではこの分からない部分を確認することが必須となります。その根拠を唯一示すことができるのがカルテです。
正に「論より証拠」です。
- 患者の主訴があり、
- ○○を疑い、
- そのことから△△の検査を行った、
- 検査の結果○○であることが判明した、
- そのため□□の治療を行った
このような記載があれば指導医療官は納得します。これが新規個別指導をお互いが何の問題もストレスも無くスムーズに終えることができる100点のカルテと言うことです。
逆に記載のないカルテの場合は、指導医療官は算定要件を満たしているか判断するために質問し納得できる回答を得る必要があります。
また、その場で正しく回答できたとしても、指導医療官からは「それならカルテにちゃんと書いてください」と言われます。
その数が多くなればなるほど指導医療官のストレスも大きくなり追及も厳しいものとなります。
結論
新規個別指導を問題なく終えるためには、
- 不正請求をしない
- 保険請求のルールを理解する
- しっかりとしたカルテを作成する
ことができれば大丈夫です。
飲食店のメニューや値段、セットメニューの組み合わせを理解していない店主はいませんよね?
また、一般企業であれば不正請求によって不当に利益を得ることは、詐欺や横領の罪となります。
歯科医師の場合も本当に悪質な場合は詐欺罪で刑事告訴される場合もありますが、ほとんどの場合は個別指導➔監査➔取消処分と刑事罰を受けることはありません。
しかし、歯科医師としては死刑宣告をされたようなものです。私たちは取消処分を受けた歯科医師・医師をクライアントとする事業も行っていますが、「こんなことくらいで」ということであれよあれよという間に取消処分となる場合は驚くほど多いです。
そんな結果とならないように保険請求のルールを理解し、しっかりとしたカルテを作成することに努めましょう。
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